近年、情報検索に関する研究や実践は、コンピュータ・ネットワーク技術で代表される情報技術の急速な進歩・普及、研究手法の応用領域の増大、利用者層の拡大を反映して、大きく変容しつつある。たとえば、インターネット上でのサーチエンジンの普及は著しく、これまで情報検索とは関わりが薄かった多くの人が、サーチエンジンを使用してインターネット上の情報資源にアクセスするようになっている。
情報検索システムの構築・利用が日常的になるにつれ、その検索性能の評価が重要な研究課題となっている。情報検索システムの性能が社会・利用者のニーズを真に満たすものであるか否かが、大きな関心事となってきたからである。しかし、こうした課題に取り組むためには、検索性能を的確に評価できる場と規準・方法が確立・整備されている必要がある。検索性能の評価実験は、実質的には1950年代中期のCranfield実験にはじまるといえるが、当時およびそれに続く数十年間は小規模なデータベースを使用する実験室レベルでの評価実験であり、実用の検索システムの評価に結びつくものではなかった。こうした限界を打破したのが、大規模テストコレクションの構築とそれに基づく客観的で共通性のある規準での評価実験である。その顕著な例がTRECである。こうした動きはわが国でも取り入れられ、BMIR、IREX、NACSIS等のテストコレクションの構築とそれを使用する検索性能実験が試みられている。
一方、インターネットの普及は、情報検索の大衆化をもたらし、サーチエンジンを使用して、ジャンルや性格の全く異なる種々の情報が検索されるようになった。しかし、その機能や検索性能に関しては多くの問題があり、それを解決するために、現状調査や種々の方策の提案がなされている。
テストコレクションの構築とそれに基づく評価実験の成果は、これまでのオンライン情報検索システムの性能向上のみならず、Web検索の性能向上とも深い関わりがある。したがって、このような検索性能の評価実験で得られた成果の、サーチエンジンを含めた実用システムへの効果的な応用は、情報検索の発展に不可欠といえよう。たとえば、用語の出現頻度の活用に関して、評価実験で得られた成果のサーチエンジンへの導入などが、考えられる。
本パネルでは、まず情報検索技術の概要、および種々なテストコレクションの特徴とその構築・利用の現状を紹介する。続いてサーチエンジンの特徴・課題、Webページの特徴や重要度、Web検索の固有性等を取り上げる。テストコレクションでの評価実験は理論の実践であるが、これはあくまでも実用システムへの貢献を意図することが、その目的である。
そこで、本パネルの後半では、理論の現場への応用(Theory into Practice: TIP)を意識して、設定された複数のテーマを中心にパネラー、フロアー間で討議を行い、情報検索の今後を展望する。