日本眼科学会と国立情報学研究所は、眼底写真から性別を推定するAIを研究開発し、そのモデルを無償公開しました。

ヒトの疾患にはさまざまな原因・要因が存在します。一般的に悪性腫瘍や認知症などの発症は年齢を経るとともに頻度が高くなり、生活習慣病のリスクも増加します。同じ悪性腫瘍でも骨肉腫は若年者に好発します。年齢と同じように性別 (生物学的性別 biological sex) も疾患の要因となり、発症頻度に性差のある疾患は少なくありません。たとえば、全身性の疾患である関節リウマチは女性の発症頻度は男性の約3〜4倍高く、眼科領域に限っても加齢黄斑変性症は男性の発症頻度は女性の約2〜3倍高いことが報告されています。発症や症状に性差のある疾患の病理を研究するためは、研究対象の試料に性別のラベルが付与されている必要があります。しかし、サンプリング手法やデータの匿名化などの処理によって性別ラベルがついていない試料もたくさんあります。

眼底の網膜は外界からの光を受容するという特質上、体外から光学的に観察しやすい組織です。そのため、眼底写真を利用して通常では簡単には観察できない個人の状態を推定する方法が模索されてきました。年齢や性別、喫煙状況、血糖の状態などをAIで推定可能なことが明らかになっており、そこから得られる情報は眼科領域の疾患だけでなく、様々な全身の疾患を対象とした医学研究に活用できる可能性があります。しかし、これまでに報告された研究では、開発されたAIが公開されていないことから、他の研究に用いることができませんでした。

そこで、日本眼科学会ではNIIと共同で眼底写真から生物学的性別を精度良く推定するAIを開発し、広く医学研究に役立ててもらうために無償公開することにしました。公開したAIの詳細はJapan Ocular Imaging Registry (JOIR)眼底からの性別予測モデルをご参照ください。

今回のAIが網膜のどのような特徴を捉えて性別を判定しているのか、現時点ではよく分かっていません。少なくとも、眼科医が網膜写真を観察しても性別を判定することはとても難しく、網膜にはこれまでに知られていない性差が器質的に備わっていることが伺えます。本AIを研究に活用することと同時に、この器質的差違を明らかにすることで、加齢黄斑変性症のように発症に性差のある眼底疾患の病理が究明されることが期待されます。

国立情報学研究所プレスリリース https://www.nii.ac.jp/news/release/2023/1207.html

Update

ニュースリリースの英語版を発表し、EurekAlert!にて国際配信されました。