日本眼科学会と名古屋大学、国立情報学研究所は、学会主導データベース「Japan Ocular Imaging Registry: JOIR」で収集された画像データを利用し、眼底写真から血圧や血糖値、BMIを推定するAIを研究開発してそのモデルを無償公開しました。このAIモデルを活用し、メタボリック症候群を予防する研究の一助になることが期待されます。

深層学習(Deep Learning、DL)では、学習の条件を変えることで、同じ学習データであっても異なる機能をAIに持たせることができます。このような機能の一つに、肉眼では検出できなかった画像上の未知の特徴を認識することがあります。未知の特徴には画像が撮影された個人の状態も含まれ、例えば眼内の光を感じる部分である網膜を撮影した眼底写真からは、年齢性別を推定することが可能です。

日本医療研究開発機構(AMED)の支援により構築されたJOIRのデータには、眼底写真とともに本人の全身状況や生活習慣をあらわす数値も含まれているものが多数あります。今回研究開発したAIモデルは、血圧(収縮期と拡張期)、血糖値、腹囲、BMIの真値が付与された17〜94歳の眼底写真約13万枚を学習データとし、眼底画像からDLを用いて値の推定を行うものです。これまでのモデル開発においてEfficientNet-B7が高い精度を示していたことから、今回もEfficientNet-B7をDLに用いました。その結果、160万以上の眼底画像データを用いて開発された既報のAIモデル(Ryan P. et al., Nature Biomed. Eng., 2, 2018)に匹敵する性能を10分の一以下の学習データで実現しました。今回開発した眼底画像からの血圧(収縮期と拡張期)、血糖値、腹囲、BMIの推定AIモデルを公開します。公開したAIの詳細はJOIRのJapan Ocular Imaging Registryで収集されたデータを用いて作成した推定モデルをご参照ください。

今回開発したAIモデルは、眼底画像から血圧・血糖値・腹囲・BMIといった代謝関連指標を一定の精度で推定できることを示しており、研究者にとって新たな視点でメタボリック症候群のリスク評価を行う手段として活用されることが期待されます。これにより、生活習慣病の予防医学の分野における基礎研究や疫学研究の進展が促されるとともに、動脈硬化などの疾患予測に関する知見が深まる可能性があります。将来的には、こうしたAI技術が健診や遠隔医療の現場に導入され、非侵襲的かつ簡便な方法で個人の健康リスクを可視化することができるようになるかもしれません。

国立情報学研究所プレスリリース https://www.nii.ac.jp/news/release/2025/0512.html