感情に基づいた語りの生成

 SNSの投稿から書き手の感情を推定することは難しいだろうが、感情を決めればそこから出てくるであろう投稿は生成しやすいだろう。ならば、人々がどのような感情を持っているかを仮定して、SNSでの人々の反応や炎上をシミュレーションして理解するようなことができないだろうか。

 AIは人の感情を理解できるのか、あるいはAIは感情を持てるのかという議論がある。決着をつけることが難しいものだとは思う。一方そもそも人間がどのように感情を持ち、それをどのように表現しているのかというところが正確にわかっていない。感情は、観測することも分析することも難しい。一方、人間は他人の感情を推察することはできる。表情や語り方から、あるいは書いた文章から推察する。コミュニケーションにおいて大きな役割を持つ一方で、炎上や分極が起こっているときには、その推察にって自身の心が傷つくことも、相手に対して極端な感情を持つこともあるだろう。
 AIは感情を理解できないという立場をとれば、炎上や分極に関わる投稿を見て、その投稿者がどのような感情を持つのか推測することは難しいだろうと考える。人はある感情を持っても、その感情をそのまま表現しないことも多いからである。また、その文章を見て読み手がどのような感情になるかを推察することも同様に難しいはずである。人は、書いてあるとおりに言葉を受け取るものではないからである。
 一方で、LLMは感情の形式のようなものは十分に操作できるのではないかと思える。このような状況でのこのような感情というものをたずねられたら、それに関する解説を妥当にできる。感情がどのようなものであるかを精緻に分解していくこともできる。感情に関する知識は豊富に蓄えてると思って良いだろう。そのため、このような感情を持っているときに、このようなことがおきたら、どのような反応をして、どのような言葉を発する、あるいはどのような投稿をするか、というシミュレーションに関しては、一般的なものに限るであろうが、上手にできるだろうと考える。
 そうであれば、たとえば様々な考え方と感情を持つ人たちが、ある記事を読んだときにどのような投稿をするか、といったことをシミュレートすることができるようになる。これは、現在の状況を正確に再現するために行うのではなく、ある種の検証に使えるのではないかと考えている。たとえばある記事が炎上してしまったとき、その原因がなんであるかはなんとなくはわかるのだが、実際の様相はあまりわからないことが多い。心理学や社会心理学の理論を当てても、一部はきれいに解釈できるのであろうが、実際にどのような要因がどのように混ざり合っているのかを見積もることは難しいであろう。このようなシミュレーションができれば、少なくとも自身が想定している原因、人々の考え方や感情を想定したときに、実際にどのような炎上の仕方をするのかをシミュレートすることができる。このシミュレーションが実際と大きく異なるのであれば、自身の考えは見当外れだったと見なすことができるし、近ければまあまあ妥当だと思うことができる。また、たとえ見当外れだったとしても、シミュレーションと実際の違いを観察分析すれば、その違いが何を意味するのか、何から来ているのか、それを探求していくことができる。
 観察したものから、その観察対象がどのようなものであるかを正確にしていくことは難しいが、このようなものであったとすると観察結果はこのようになるはずであるというシミュレーションを行うことはできる。その観察対象の状況とメカニズムがある程度わかっていればである。例えば原始の宇宙がどのようであったのか、太陽系はどのようにしてできたか、津波を起こした地震の震源地やそこでのプレートの動き具合はどうであったのか、これらは観測のしようがないのでシミュレーションによって探求されている。感情に関する研究も、ビッグデータや計算を用いて、同じようにアプローチすることができるかもしれない。

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