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新しい問い、交わってできる問い、違う道具を使う道
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ここでは、AIの時代における、新しい問いとはどのようなものであるか、そのような問いを作ろうとするとどのようなことが重要になるのかといった点について考えたい。
研究における問いとは、研究者が知りたいことや解決したいことを表現したものであり、研究活動の出発点となるものである。そして、その問いは一般に、それぞれの研究分野が持つディシプリンに基づいて設定される。多くの研究分野には、その分野が目指す大きな目標が存在する。例えば物理学であれば世界の仕組みを明らかにしたい、生物学であれば生命の神秘を解明したい、工学であれば人々の役に立つ技術を作りたいといった目標である。
しかし、その大目標に向かう過程で、どのような研究を行っても理解が進むわけではない。また、一人の研究者が何かを理解したとしても、その理解の仕方が他者に共有できるとは限らない。そのため、多くの研究分野では、何を理解するのか、どのように理解するのかが定められている。さらに、技術的な制約によって研究手法にも限界があるため、実際には大目標の下に中目標や小目標が設定され、それらを達成するための研究方法や評価基準が発展してきた。
例えば物理学であれば、世界全体を対象とするのではなく、素粒子や天体などの自然現象を理解対象とする。一方で、人間社会の意味的な現象や価値判断そのものは主な対象としない。また、理解の方法も、現象のメカニズムを数理モデルによって説明することが中心であり、自然言語による記述や主観的な解釈だけでは理解したとはみなされない。理論は実験によって検証されることが求められ、説明範囲が広く、簡潔で、数理的に妥当なモデルが高く評価される。研究者が見聞きしたことを日記のように記録しただけでは、物理学的な知識として認められない。
このような、何を理解するのか、どのように理解するのか、どのような方法を用いるのか、何を良い研究とみなすのかといった一連の考え方や規範を、ここではディシプリンと呼ぶ。そして一般に、研究の問いはこのディシプリンに沿って設定されている。ここで述べたいのは、このような既存のディシプリンから生まれる問いではなく、新しいディシプリンに基づく問いである。もちろん、単に既存のディシプリンから外れた問いには価値がないことも多い。既存の研究の蓄積と無関係に思いつかれた問いは、研究として成立しないことも少なくない。
しかし、新しい技術の登場や、新しい視点・考え方の導入によって、従来とは異なる妥当なディシプリンが形成されることがある。ここでは、そのような新しいディシプリンに基づいて生まれる問いを、新しい問いと呼びたい。例えば近年では、計算機の発展によって、解析的に解くことが難しい物理現象の基礎方程式を数値計算によって解き、現象の再現や予測を行えるようになった。この計算技術は単なる新しい道具ではない。世界を理解する新しい方法を与え、新しい中目標や方法論、評価基準を生み出した。そして最終的には計算物理学という新しい研究分野を形成するに至った。
もちろん、新しい問いが常に新しい研究分野を生み出すほど大きな変革を伴うとは限らない。しかし、新しい小目標、新しい研究方法、新しい評価軸、新しい価値基準を提案するものであれば、それもまた新しい問いと呼ぶことができるだろう。重要なのは、新しい問いは既存の研究と対立するものではないということである。既存のディシプリンは、その分野の大目標に向かうために築かれた太い道のようなものである。新しい問いとは、その道を壊すものではなく、その隣に新しい道を作るものである。それぞれの道は異なる方法で大目標に近づき、異なる側面を明らかにする。その結果として、分野全体の理解がより深まっていくのである。このように説明すれば、新しい問いが価値を持ちうることはある程度理解できるだろう。
しかし現実には、新しい問いはしばしば「ディシプリンから外れた未熟な問い」や「研究する価値がない問い」と見なされる。その背景には、新しい問いが本当に価値ある新しいディシプリンを提案しているとは限らないという事情がある。新しい問いが妥当であるためには、その問いが提案する新しい理解の仕方や研究方法、評価基準、価値軸が妥当でなければならない。そして、それらの妥当性には十分な根拠が求められる。そのためには、既存分野のディシプリンに詳しい人だけでは不十分である。新たに導入しようとする考え方や方法論に精通した人も必要になる。先ほどの例で言えば、物理学の研究者だけではなく、計算機科学や数値計算に詳しい研究者も必要である。私が新しい問いを生み出すために異分野融合が重要だと考える理由はここにある。
実際、新しい問いの背後には、新しい方法論や考え方、評価基準の導入が存在することが多い。研究者はそれらを基盤として、新たな中目標を設定し、新しい形で大目標にアプローチすることになる。しかし、このとき既存のディシプリンとかけ離れすぎると、元の分野から受け入れられなくなる。一方で、既存のディシプリンに寄り添いすぎると、新しい発想の価値が失われてしまう。そのため、新しい問いを設計する際には、既存のディシプリンとの連続性を保ちながらも、新しい考え方の独自性を損なわないよう慎重な設計が必要になる。これは決して容易な作業ではない。優れた問いを生み出すためには、創意工夫と深い思考が求められる。そして、そのような問いの創出は、一人の研究者が孤独に行うよりも、多様な背景を持つ研究者同士の対話や議論によって実現しやすい。異分野の議論が重要である理由は、新しい研究成果を生み出すためだけではない。新しい研究の問いそのものを生み出すためにも重要なのである。
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