異分野融合の議論

現在、多くの研究機関や学会、学術ソサイエティにおいて、異分野融合が推奨されている。研究分野の壁を越え、新たな価値や研究領域を生み出すためには、一つの分野の知見や思考だけではなく、複数分野の知見や思考を組み合わせることが重要だと考えられているからだろう。少なくとも、多様な分野の研究者が集まり、共同で研究課題を設定し研究活動を行う方が、新しい価値が見いだされる可能性は高くなるように思われる。

しかし、異分野融合が推奨される一方で、どのように融合するのかという方法そのものが議論されたり評価されたりすることは少ない。優れた研究成果が得られれば高く評価されるが、その成果に至るまでの融合のプロセスや融合のあり方が評価対象となることはほとんどないように見える。もし異分野融合研究を効果的に進めたいのであれば、融合の方法にも着目する必要があるだろう。そのためにはまず、研究者が実際にどのような形で異分野融合を行っているのかを分析し、その類型を整理する必要がある。

ここでは神田ラボで行われてきた異分野交流を観察対象とし、研究内容や対象分野ではなく、研究者がどのような行為によって融合を実現しているか、という観点から異分野融合の類型を考えてみたい。

類型1:他分野の技術を研究の道具として利用する

第一の類型は、他分野で開発された技術を、自身の研究分野のための道具として利用するものである。近年盛んに行われている各種の XX Informatics は典型例である。分野Aの研究者が、情報学で開発されたAI技術やデータ分析技術、シミュレーション技術などを、自身の研究対象に適合するよう調整して利用する。この場合、研究課題の設定や成果の価値付けは主として分野Aのディシプリンに基づいて行われる。そのため、情報学の技術は利用されるものの、情報学そのものの学問的発展につながるとは限らない。物理学や化学において工学的な実験装置を導入することや、工学分野が心理学の成果を利用して研究を進めることも、この類型に含まれるだろう。

類型2:他分野の技術開発自体を研究対象とする

第二の類型は、他分野の技術を利用するだけでなく、その技術を開発・改善すること自体を自身の研究活動として取り込むものである。例えば、人文学におけるデータベース構築、自然科学における実験機器開発、あるいは分野Aにおける機械学習アルゴリズムの改良などが該当する。これらは本来であれば情報学や工学の研究活動とみなされる。しかし、自身の研究分野の発展のために、それらの技術開発そのものを研究として行うのである。ただし、この場合も研究課題の設定や評価は導入先の分野のディシプリンによって行われることが多い。そのため、データベース研究や機械学習研究そのものの理論的発展を目指すわけではないことが多い。

類型3:他分野から研究トピックを獲得する

第三の類型は、他分野から研究対象や研究課題そのものを獲得するものである。例えば、哲学や法学が自動運転車という工学的トピックを取り上げ、その倫理や制度設計を研究する場合がこれにあたる。また、情報学が建築分野から構造設計というトピックを受け取り、その最適化問題を研究する場合も同様である。情報学においては、この類型が非常に多い。新しい研究課題の多くは、他分野から持ち込まれた問題意識によって生み出されていると言ってもよいだろう。しかしここでも、研究は受け入れ側のディシプリンに基づいて進められる。そのため、トピックそのものが持つ価値よりも、それを利用してどのような研究成果を生み出すかが重視される。

以上の三類型を見ると、多くの異分野融合研究はこのいずれかに当てはまるように思われる。また、これらはいずれも、他分野から何かを輸入する研究と捉えることができる。輸入される対象は、技術であったり、研究活動であったり、研究トピックであったりするが、基本的には既存のディシプリンの枠組みの中で利用される。しかし、異分野融合研究にはしばしば新分野の創出やイノベーションが期待される。その期待の本質は、単なる輸入ではなく、ディシプリンそのものの変革や新たなディシプリンの創出にあるのではないだろうか。

類型4:ディシプリンの融合による新しい研究様式の創出

神田ラボで行われている議論を観察していると、前述の三類型には収まらない研究の問い立てが数多く見られる。それらは、他分野の技術やトピックを利用するのではなく、他分野の価値観や考え方そのものを導入し、自身の研究分野の新しい研究方法を作り出そうとするものである。

例えば文学研究では、作品を精読し、作家の心理や時代背景を読み解くことが重視される。そのため、長く緻密に構成された文章が分析対象となることが多い。一方、SNSの投稿は短いが、書き手の考えや感情が直接的に表現されている場合が多い。そのため、個々の投稿者の心理を推測すること自体は比較的容易である。しかし、一つ一つの投稿から得られる情報量は限られている。そこで、個人ではなく多数の投稿全体を対象とし、その中に共通して現れる心理的特徴や傾向を抽出しようと考える。この発想は文学研究には必ずしも存在しないが、情報学やデータサイエンスにおいてはビッグデータ解析の基本的な考え方である。

もし文学研究が、この大域的なデータの見方を取り込み、その上で新たなテキスト分析の方法を構築するのであれば、それは単なる技術導入ではない。文学のディシプリンと情報学のディシプリンが融合し、新たな研究様式が生まれていると考えられる。このようなものを第四の類型、すなわちディシプリンの融合による新しい研究ディシプリンの創出と呼びたい。

過去の例としては、バイオインフォマティクスがこの類型に入るだろう。生物学は長らく観察可能な特徴に基づいて生物を分類してきた。しかしゲノム解析技術の発展により、遺伝的距離に基づく分類が可能となった。これは生物学と情報学のディシプリンが融合した結果、新たな研究体系が形成された事例と言える。

短期的な研究成果を求めるのであれば、第一類型から第三類型までの研究の方が有効かもしれない。しかし神田ラボで生まれている第四類型の研究は、新しい分野を拓く大きな可能性を持っているであろうし、非常に魅力的である。実際、情報学の研究集会で発表した際には、多くの聴衆が集まり、議論も大いに盛り上がった。少なくともプロジェクト内では、多くの研究者の好奇心を刺激し、もっと知りたい、関わってみたいと思わせる力を持っていたように思う。

一方で、このような研究には大きな困難も伴う。研究方法そのものが確立されていないため、何を行うにも手探りで進めなければならない。また、成果を発表する場を見つけることも容易ではない。多くの学術誌は既存のディシプリンに基づいて論文を受理するため、新しいディシプリンに属する研究は適切な投稿先を見つけにくい。その意味で、新しいディシプリンを創出することは、研究成果を受け入れてくれる学術コミュニティそのものを新たに作り出すことを意味しているのかもしれない。

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