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新しい組織の人材の問題
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大学の新しいセンターなど今までにないタイプの組織では、人のクリエイティビティや得意技を上手に組合せてミッションを決めていくようなボトムアップな組織作りが必要だろう、そういうクリエイティビティを組合せるにはどうしたらいいのだろうかという問題を考えたい。
大学などでは、ときどき有期雇用の職員を採用し、新しいタイプの拠点や組織が立ち上げられることがある。たとえば、新しい教育プログラムの創設や、特定分野と情報学を結びつける連携拠点の設置などである。これらは大きな意義や必要性のもとで作られ、そこで働く人には、従来にはなかった役割やタスクが与えられることが多い。専門的な技術や能力を要する場合も多く、研究者が採用されることが多い。これらのポジションは挑戦的で意義深いものである一方、採用には苦労することが多く、実際に就いた人が大きな成果を上げ、その後のキャリアを順調に伸ばしていくとは限らない。通常の研究プロジェクトでは、研究活動そのものが仕事の中心であり、それが研究者のキャリア形成に直結しているため、仕事がやりやすい上にキャリアの見通しが立てやすく、同時にプロジェクトとしても成果の見通しが良い。それに対して、新しいタイプの組織での仕事は、研究者にとっては、仕事のやり方や評価軸が見えにくく、通常の研究活動とは性質が大きく異なっている。
しかし、このような職が研究者にとって難易度が高く、その割に成長につながらないわけではない。研究プロジェクトであっても、プロジェクトの目標が自身の研究と直結していることは少なく、自身の研究テーマと直接関係しない業務は多く存在する。新しい分野や融合領域に触れることは自身の成長とキャリアにとって重要であるのは間違いない。教育は研究者の重要な責務の一つであるし、イベントや研究者の招聘などはネットワーキングや運営業務の上達という点で大きなメリットがある。それにもかかわらず、こうした新しい組織が研究者として成長できる魅力的な職場と見なされることは少ないだろう。
このような組織となってしまっている理由の一つは、仕事に求められるクリエイティビティの質にあると思う。これらの仕事では、業務内容の設計、取り組み方、成果の価値付けまでを、個人の考え、アートによって行うよう求められることが多い。たとえばワークショップを開催する場合でも、誰を招くか、何をテーマにするか、その価値をどう位置づけ、どう発信するかといった点をすべて自分で考えなければならない。前例や標準的な手法が存在しないことも多く、相談できる経験や知識を持つ同僚もいない。これは、一定の作法や共有知があり、周囲に同分野の研究者がいて、いつでも議論や相談ができる通常の研究プロジェクトとは大きく異なる点であり、仕事の難しさと成果を出す難しさにつながっている。
通常の研究プロジェクトでは、研究が行き詰まったときや、出てきた成果がプロジェクトの目的とは違う価値を持つような場合でも、プロジェクトリーダーが助言を与えたり、別の研究と組合せたりすることで、全体としての成果につなげ、プロジェクト全体としての厚みを増していくものである。しかし、新しい組織では、リーダー自身が十分なノウハウを持っていない場合も多く、個々の成果をどのように評価し、プロジェクトの目標に対する意味づけていくかが難しくなる。その結果、高い質の仕事を継続することが難しくなり、こうしたポジション自体が敬遠され、組織としても大きな成果を上げにくくなると考えられる。
このような状態で質の高い仕事をしていくのはかなり難しいだろう。結果としてこのようなポジションは少し敬遠され、組織自体が大きな成果をあげることも難しくなるのではなかろうか、と推察している。では、このような組織を上手に運営し、大きな成果につながるようにするにはどうしたらいいのだろうか。一つ考えられるのは、雇用されたスタッフたちのクリエイティビティを方向付け価値付けし、成果としてまとめていくことだろうと考える。通常の研究プロジェクトであれば当然行われているこの作業が、新しいタイプの組織では行いづらいのだ。プロジェクトリーダーの経験やノウハウなどのアートで行われてきたことを、なんらかの形で加速できるようにしなければならないのだ。そのための決定的な処方箋はないであろうが、少なくともいくつかやるべきことはある。まずはプロジェクトに関わる人々が、お互いの価値観、技術、人脈や環境、目標などを深く相互理解することであろう。これによって、各個別のタスクをどのように進めるか、戦略や方法を考えることができるし、誰に何を聞けば、お願いすれば、効果的であるのかも見えてくる。
さらに、個人の価値観や技術をどのように組合せ、見立て、価値付けしていくかを多く議論し、考えていくことが大事であろう。価値付けや方向付けは自明でないことが多く、ここに対して深い思考が行われていることが、その後のプロジェクトの戦略策定や価値付けに大きく資するはずである。一方で、こういった組織の設計自体にも大きな問題がありそうである。多くのこういった新しい組織は、「こういうものがあったらいいだろうな」という希望的な欲求に基づいて設計されているように思われる。組織の必要性や有用性はとても高いのだが、一方でそれがその組織に属する個人個人のどのような活動によって作られていくのかについては何も考えられていないこともある。個人のタスクがどれくらい難しく、どういう価値を持つべきかの設計がなく、高いクリエイティビティへの期待だけがあるとしたら、成功へとつなげることは困難であろう。この面からは、高いクリエイティビティを必要とするタスクを持つ組織の設計には、そこに属する個人個人がどのようにクリエイティビティを発揮し、どのような価値へとつながり、それによって各人がどのようなものを獲得するのか、そういった面をベースにして組織の価値と成果を設計していく、ボトムアップな設計が重要になるだろう。そうすれば、その組織で働くスタッフは最大限のクリエイティビティを障害なく出せるようになるし、そこから生まれた成果はプロジェクトの大きな価値へとつながっていく。個人の技術やクリエイティビティは非常に多様であるが、特定の分野の研究者に限定すれば予想がつきやすい。そういった方向から、パズルを組み上げるように価値ある組織を作っていくことが、大事なアートの作業となるだろう。
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