楽々簡単! 20分でできる勤務表(半)自動作成ツール


カウンター by  SOHO COUNTER

勤務表(勤務スケジュール)とは、サービス業などスタッフが常時一定数勤務する必要がある職場で、だれがいつ働くかを書いた表です。コンビニや病院、広くは鉄道や守衛など非常に幅広い業務で使われています。この勤務表を作る作業を、勤務表作成とか、スタッフスケジューリングと言います。

もし、働く人がある程度均質で、人手が十分に足りているなら、勤務表作成はそれほど難しくありません。適当なローテーションを決めて、それをくるくると回して順番を決めればいいからです。ところが、普通、そうはいきません。人手不足に加え、夜勤や高い技術が必要な勤務ができないアルバイトなどの職種の人がいたり、スタッフの休日の希望があったり、1週間に1日は休日があるべき、夜勤が連続するのは良くない、といった勤務形態の制約があったり、といろいろな条件がつきます。なるべく希望をかなえるよう、限られたスタッフを配置するのはとても難しい作業です。多くの職場では、その職場のリーダーが1ヶ月なり1週間なりの間隔で勤務表を作りますが、たいていは1日程度は、長いと3日以上かかる場合もあるようです。

ちなみに、欧米ではスタッフ個人の希望を丁寧にかなえるようなことはそれほどないようだと聞いています。また、大きな職場においては「夜勤専門」という職種があったりするそうです。これなら夜勤の人は夜勤を、日勤の人は日勤をすればいいので、勤務表作成は極めて楽です。夜勤の人は待遇が悪くなりますので、その分給料を高くするようなことをして対応しているのだと思います。しかしながら、夜仕事をするということを続けることは、生活が昼夜逆転するばかりでなく、日常生活で他者と関わる機会が極端に減ります。そういう意味では全員が夜勤を分担する方が、労働者の労働環境という意味では日本の職場の方が健全に思えます。勤務表作成は確かに大変な作業なのですが、「労働者の環境」という意味では、日本のスタイルは世界のトップを進んでいるのかもしれません。苦労されている方々いらっしゃると思いますが、誇りを持って仕事をしていただきたいです。

労働者にしわ寄せをする合理化でなく、作成者の作業を軽減する方向で何かできないか、と始められたのが、スタッフスケジューリングの研究、および勤務表作成のツールの開発です。最近は研究面でも実用面でも、比較的多く見られるようになってきました。研究の方では、成蹊大学の池上敦子先生が日本での先駆けだと思います。15年ほど前からナーススケジューリングという、看護師の勤務表作成問題の研究をされていて、問題のモデル化、つまり、こういう条件のもとで、こういうことを決定する問題を解けば良さそうだ、という、問題の数理面を明らかにされています。解法(アルゴリズム)も作りました。現在では、ある程度複雑な条件があっても、かなりの条件を満たすように勤務表が作成できます。

一方、作成ツールのほうも、ここ2-3年でずいぶん多くのものが見られるようになりました。Web 検索で「勤務表作成」とやって調べてみると、かなりの数の作成ツールが見つかります。作成ツールは、私の「研究の目」で見ると2種類に分かれるようで、「鉛筆で表を書くのは大変だから、表計算ソフトのような入力サポートのついた便利なものを作ろう」という入力支援ツールと、「最適化を行って、ある程度自動的に割り付けを行ってしまおう」という最適化ソフトがあるようです。

ところが、このように多くのものがあるにもかかわらず、実際の現場ではそれほどツールが使われている様子はないようです。多くの職場にはパソコンがあり、書類やスタッフの管理をパソコンでしているにも関わらず、使われていないのには、たぶん、それなりの理由があると思っています。私なりにその理由を考えてみますと、

入力支援ツールは、勤務表の膨大なマス目を埋めるのは人間がしなくてはならず、結局紙と鉛筆を使った方が速いということもある。きれいに印刷したり、過去の勤務表を保存するのが楽、という利点の方が強そう。

最適化ソフトは、有料(最低でも10万程度)なのが難しい。職場の人の作業を軽減するために10万円出すのは、通常大変。また、スタッフスケジューリングは職場ごとに異なる条件を持つので(特定の日に何か特殊なことをしなければいけないとか、掛け持ちで仕事をしている人を特殊扱いするとか、など)ことができる人だけが人の組合せに働き方がだれかがいなければいけないとか)、ちゃんとカスタマイズしようと思ったらシステムを作り替えなければならないので、やはりここにもお金がかかる(最低でも100-200万)。

学術研究では、最適化の速度と精度を向上させることに興味が置かれているが、実用的には計算を高速化することで節約できる時間は限られている。また、理論を最新の理論をプログラム化するのはとても手間がかかる。

といった所だと思います。まとめてみると、

@ 職場は規模が小さいところが多いので、新しいシステムを導入するためにそれほどのお金や手間が掛けられない。つまりフリーソフトであるべき

A 職場にコンピュータに詳しい人がいるとは限らないので、難解なインストールや難しい設定をしてカスタマイズのは難しい。つまり、インストールと設定は簡単であるべき

B 自動作成するべき

となると思います。これらをクリアできれば、小さな職場でもちゃんと役に立つツールが作れそうです。そこで、この研究(大学院生の久保琢磨君の研究)では、これらの条件をクリアするべくがんばってみました。まず @ ですが、これは大学の研究の産物であれば、実現は簡単です。Aは、Web サービスで提供する、つまり計算してくれる Web ページを作る、あるいはエクセルのマクロでプログラムを組むことで、エクセルのファイルに入力すると自動的に勤務表に書き込まれる、というように簡単にすることができる、という方法を考えました。B がけっこう難物で、できあがった勤務表をそのまま使えるようにするためには、各職場での条件を全部設定する必要があるのですが、スタッフスケジューリングは職場ごとに条件が違うと言ってもいいほどに多種多様な制約がありますし、職場ごとにどのようなスケジュールをよしとするか(公平さやいざというときのゆとりの設定など)も異なるので、全てを考慮してシステムを作るのはほぼ無理ですし、職場ごとにカスタマイズするのも難しいです。

そこで、考え方を変えてみました。条件の多様さと煩雑さを考えると、完璧に条件を考慮するのは難しい、と考えるのが普通だと思います。そうなると、できあがった勤務表をそのまま使うのは現実的でなく、気になるところをユーザが修正することになります。この流れが必須なのであれば、目指すべきは、勤務表作成の作業全体の中でしめる割合が高くなるであろう、勤務表の修正作業が短くなるようにすることです。そのためには、基本的かつ一般的な条件をできるだけ考慮し、修正が容易になるような解を生成するように最適化の手法を工夫すること、修正が容易になるように、修正用のツール、特に違反している条件を自動的にチェックしてくれるツールが重要になります。また、問題の設定を考えるとき、研究者はついつい細かい部分までに正確に反映させ、それがかえって入力の手間を増やすと言ったことにつながるのですが、そのようなことがないよう、いいかげんにするべきところはいいかげんにして、パソコン操作の手間を少なくするように努力しています。

実際に調べて見たところ、最適化はあまりがんばって詰め込みすぎず、また、特定の条件に偏らず、少し条件違反を残しても良いので、出勤人数にゆとりを持たせて最適化したほうが、その後の修正が楽に行える、ということがわかりました(詳しくは久保君の研究を)。現在、このような方向性で行っているプロジェクトが2件あります。訪問介護の勤務表作成を行うWebサービスの開発と、ホテルや病院など職場に人が詰めるタイプの勤務表を作るエクセルツールの開発です。Webサービスは開発中ですが、エクセルツールのほうは公開しています。ご興味が有れば、ご覧になり、使ってみてください。

 

病院やホテルなど24時間稼働する職場を中心とした勤務表作成を行う勤務表作成ツールです。エクセルで作ってあるので、エクセルの表の一部を埋めると、勤務表の部分を自動的に埋めてくれます。また、違反した制約をチェックする機能がついているので、気になる部分を簡単に修正できます (久保琢磨さんの研究) 

  エクセルを使った勤務表作成ツール

訪問介護での勤務表作成ツールです。ヘルパーさんの勤務時間と利用者のリクエスト、および移動時間を考慮して勤務表を作成します。毎月使う基本的な設定をサーバに保存できるので、毎回1から入力をし直す、という苦労がありません。(成蹊大学池上敦子先生との共同研究)

  訪問介護スケジューラ   解説

 


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