大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 (ROIS) 統計数理研究所 (Institute of Statistical Mathematics, ISM) は医療健康データ科学研究センター (Research Center for Medical and Health Data Science, RCMHDS) を2018年4月1日に設置しました。その設立記念シンポジウム「データサイエンスが切り拓く、医療と社会の未来」が2018年5月28日に開催され、RCMBから二宮が参加しました。

NIIにRCMB、ISMRCMHDSと、医療データ系の研究センターがROISに相次いで設立されたことは、EBMの推進が情報学・データサイエンスの主要な課題となっていることと無関係ではありません。RCMBは医療画像を機械学習で解析し、診断支援を提供するシステム・サービスの構築を目指しています。一方、RCMHDSはEBMの重要性に根ざして研究プロジェクトを推進すると同時に、人材の不足を解消するために高いスキルと知識を持った統計家を育成することも目的としています。

RCMHDSとRCMBの設立理念は一見ことなっているように見えます。実際、RCMHDSはテキスト・数値データを、RCMBは画像データをそれぞれ主な研究対象としています。しかし、医療ビッグデータを利活用して医療の効率を高め、社会の要請に応える点で目指す到達点は同じです。いずれ、同じ患者さんに属する医療・健康データを診療科を超えて統合し、より精度を高めた診療支援システムを構築するときが来ます。そのときのために、RCMHDSとRCMBが連携して活動するためのヒントを得たいと考えています。

ISM RCMHDS 2018

統計数理研究所 医療健康データ科学研究センター 設立記念シンポジウム

データサイエンスが切り拓く、医療と社会の未来

日時: 2018年5月28日(月) 14:00-18:10
会場: 秋葉原コンベンションホール (秋葉原ダイビル2F)
主催: 統計数理研究所 医療健康データ科学研究センター
後援: 日本計量生物学会


以下、内容のメモです。単なる備忘録で、議事録にはなっていません。しかも、最後のほうはメモ取りに疲れて内容がスカスカだし…。敬称略

開会挨拶:樋口 知之 (統計数理研究所 所長)

・統計数理研究所は昭和19年設立
・リスク解析戦略研究センターからの派生プロジェクトを拡大し、RCMHDSを設置
・平成22年にnetwork of excellence (NOE)事業を開始:個別ドメインの研究ネットワークの構築→分野を横断したコラボレーション等

来賓挨拶:西井 知紀 (文部科学省 学術機関課長)

・ゲノム解析やAIの技術進展→EBM (evidence-based medicine) の重要性→研究や人材の不足が課題に→RCMHDSの主な役割は人材育成

特別講演1:「医学研究における 統計学の果たしてきた役割と将来への展望」大橋 靖雄 (中央大学)

・ASCO アメリカ臨床腫瘍学会の例:参加者は約3万5千人/そのうち統計家は1%、約300人
・日本での生物統計への認識の低さ→ずっと低かったが、最近は改善傾向
・開原成允先生のことば「日本の医学に無いものはデータベースと統計」
・生物統計と臨床研究:EBMの歴史

  1. 1849年 John Snow のコレラ伝搬研究 at Broad Street, London→Natural experiment
  2. 1858年 統計学者としてのナイチンゲール
  3. 1947年 初のランダム化試験
  4. Cox の比例ハザードモデル
  5. 胃がん手術 (JCOG9501):D1 vs D2 リンパ節郭清の生存率の違いを検討
  6. J-START:乳がん検診におけるマモグラフィ vs 乳房エコー

・計量生物学会の提言:試験統計家の養成
・EBMにおけるベイズ統計学: I-SPY 2
・統計家の貢献:解析、デザイン、コミュニケーションと品質保証

特別講演2:「製薬企業における データサイエンスと統計教育のこれから」小宮山 靖 (日本製薬工業協会/ファイザー)

・企業統計家の守備範囲は急速に拡大←国際化・データ電子化
・新薬の研究開発の生産性は下がる一方 Eroom’s law)
・Critical Path (US)・Innnovative Development Initiative (EU) ICH reform
・次世代の開発トピックを戦略的に策定
・GCP innovation: 4 tire (principle + 3 annexes)
・森チャートの改定:時間軸は開発相から市販後の全ライフサイクルに及ぶ
・Model-informed drug development (MIDD)
・企業が用いる広告資材:製薬協がレビュー、統計家の関与
・企業の求める統計家:よく使われている方法論を知っている+コミュニケーション能力と説明力/方法論を吸収して実践する能力/応用に結びつけられる基礎力/subject matterを大切にする心

「医学アカデミアにおいて医学統計学に期待されている役割と将来の医学統計学教育への展開」

企画講演1:手良向 聡 (京都府立医科大学)

・京都府立医科大学の取り組み:2014年に大学院生物統計学講座を設置/スタッフは2人
・4年生生物統計学8回:生物統計学に基づく科学的考え方
・5年生医療統計学22回:公表された臨床研究の具体的事例をもとに結果の解釈、研究デザイン
・目標:生物統計家とコミュニケーションを図れる能力→統計を通じた科学哲学を教育
・研究相談から研究支援まで:研究相談+統計相談 (無料)・研究支援 (有料)
・問題点と課題:支援と審査の優先順位と独立性/研究支援システムの構築/統計家個人ではなく組織で対応する態勢確立

企画講演2:山下 智志 (統計数理研究所)

・統計数理研究所の取り組み
・NOE形成事業:リスク科学/統計的機械学習/次世代シミュレーション/サービス科学/調査科学
・事業の動機:データ解析スキルの欠如/高度なデータマネージメントが論文受理の要件→これらに応えられるデータサイエンティストが不足している
・RCMHDSの目的:医療統計を教えられる統計家を育成する/健康科学研究ネットワークの設立

パネルディスカッション

ファシリテーター

  • 伊藤 陽一 (統計数理研究所 医療健康データ科学研究センター)

パネリスト

  • 樋口 知之 (統計数理研究所)
  • 手良向 聡 (京都府立医科大学大学院医学研究科 生物統計学)
  • 小宮山 靖 (日本製薬工業協会 医薬品評価委員会 データサイエンス部会)
  • 佐藤 俊哉 (京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 医療統計学)
  • 津本 周作 (島根大学医学部医学科 医療情報学)
  • 松井 茂之 (名古屋大学大学院医学系研究科 生物統計学分野)
  • 渡辺 美智子 (慶應義塾大学大学院健康マネジメン卜研究科)
  • 浅田 隆太 (岐阜大学医学部附属病院先端医療・臨床研究推進センタ一)
  1. アカデミアにおける医学・生物統計学教育
    ・佐藤:数年前に教養教育の改組/医学部の要望「数学より統計を教えて欲しい」→統計入門 (中心極限定理のシミュレーション)
    教育方針:統計解析は専門家に任せ、研究者や臨床家はデータマネージメントをきちんと行う
    ・津本:情報基盤としての診療情報の電子化
    レセプト/健診/治験/病院情報システム→[リンケージ:統合データ→ビッグデータ解析]AIによる解析支援?→コホート前向き
    フランスの例:SNIIR-AM + PMSI = national database
    ・松井:名古屋大生物統計学教室設置から5年
    1年生:Fundamentals of Biostatistics (座学)→実際の論文を題材にして研究遂行と科学的解釈を実践
    修士:臨床統計
    博士:応用統計 joint course with Lund Univ. in Sweden
    専門家育成:基本的方法論、統計数理の教育
    博士課程の学生:統計相談にいっしょに入る
    ・渡辺:慶応義塾大学大学院健康マネジメント研究科、社会人の大学院大学
    学生:統計数理のバックグラウンドはないが、課題・問題意識は高い/健康に至るサービスを提供するセクターを育成
    real world data や IoT、ウェアラブルを活用する方法を研究、教育
    未見のデータから新たな価値を見いだす
    ・浅田:臨床研究推進センターには統計家はいない←統計家の雇用が難しい
    ・小宮山:企業における統計家育成の現状
    ファイザーの例:新入社員は各セクションに丁稚奉公→視野の広い統計家の育成に寄与した/残念ながら今は行っていない
    ・手良向:教育の効果が現れるまで待つしかない
    ・佐藤:統計家の行動指針 by 計量生物学会/企業会員への対応として策定

  2. 高度化した手法と統計家への期待
    ・樋口:コミュニケーション能力が重要
    情報の品質保証 (Quality Assureance):ビッグデータの時代に入って疎かになりつつある
    科学哲学が鍵になる
    ・佐藤:統計的因果推論はこの20〜30年で大きく進歩した but huge gap between real world data and real world evidence database and registry

  3. オープンディスカッション
    ・樋口:コンサルテーション、統計数理研究所では年間約50件
    シニア2〜3人に若いポスドクで共同研究相談

閉会挨拶:伊藤 陽一(統計数理研究所 医療健康データ科学研究センター・センター長)