How AI shapes the future of medicine?
by Youichirou Ninomiya
市民公開シンポジウム「AIが変える医学の未来 (ミライ) - 人工知能と診断の交差点」が2018年12月2日に開催され、RCMBから二宮が参加しました。文部科学省新学術領域研究の生命科学連携推進協議会が主催し、社会との接点活動班の班長、加藤 和人 教授 (大阪大学大学院医学系研究科) がオーガナイズされたシンポジウムです。AIによる診断支援研究が全世界的に進むなかで、AI診断を受ける立場である一般の人々がどのように感じ、考えているのか、を知る良い機会となりました。
RCMBは医学系学会に属する医師と画像解析を得意とするIT研究者が議論を重ねながらAI画像診断支援の研究・開発を行っています。そこでは、医師が日々の診療のなかで困っている点や改善したい点を要望として出し、その課題に対して画像解析研究者が技術的観点から対応・研究を進めています。課題解決のためにどのような医用画像がどのくらい必要で、その医用画像を学習データとするためにどのような前処理が必要なのか、頻繁に対話しています。
このRCMBの活動のなかで、どうしても欠落しがちな要素があります。それは、こうしたAI画像診断支援を実際に受診する一般の人々の視点です。RCMBの体制は医療関係者・IT研究者から成っているため、一般の人々の意見を伺う機会はほとんどありません。12月2日のシンポジウムは市民に公開されていて、シンポジウム後半のパネルディスカッションは、会場の聴衆から出された意見や質問にパネリストが答える形式で進行しました。大きな期待や素朴な疑問が出された一方で、AI診断に対する懸念や不安の声もありました。こうした懸念や不安をいつも念頭においてRCMBの活動を進めていかなくてはならない、とおもっています。
以下、内容のメモです。敬称略
開会の挨拶:加藤
- 登壇予定者が急きょ参加できなくなったため、講演者を変更
- 生命科学連携推進協議会の説明:研究手法の高度化や複雑化、増大する研究リソースや管理コストに対して、研究者にワンストップの支援を行う
- 4つのプラットフォームで研究支援:コホート- 生体試料支援/先端バイオイメージング支援/先端モデル動物支援/先進ゲノム解析研究推進
AIが照らす内視鏡診療の未来:石原
- 内視鏡診療の現状
- 内視鏡手術:以前は直径1cmまでの病変→現在は直径5cm程度まで手術可能
- 食道がんの内視鏡手術:ヨード散布で病変領域を黄色く描出/EMR 取り残しと進達度評価→ESD
- 内視鏡手術の適応:転移可能性の低い/小さい=早期がん
- 技術解説:NBI/内視鏡細胞診
- 表在食道がん検出感度:通常50% NBI 81% (ベテラン100% 若手53%)
- 内視鏡手術:以前は直径1cmまでの病変→現在は直径5cm程度まで手術可能
- AI と内視鏡
- ImageNetの画像認識コンペ (ILSVRC):2010年の認識エラー率20数パーセント→2012年Alexnetが登場/一気に認識エラー率16パーセントを達成→深層学習の有効性を実証
- 深層学習 (Deep Learning, DL) の特徴:特徴表現学習とニューラルネット
・特徴表現学習:認識対象の特徴 (手がかりとなるもの) を人が指定する必要がない→機械が自動で特徴を抽出し、学習する
・ニューラルネット:生き物の中枢神経系における認識の仕組みを再現した機械学習の仕組み - 消化器内視鏡検査のAI開発:正常な胃粘膜表面と胃がんの胃粘膜表面のそれぞれの内視鏡画像をDLにかける/胃がんを特徴づける粘膜所見をは設定しない→2種類の内視鏡画像から特徴を自動で学習する
・がん研有明病院の例:2296画像を47秒で診断 (0.02秒/画像)
・がん研有明病院の例:胃がん検出 77病変中71病変を正しく検出 (感度92.2%) - 今後の展開:余分な病気を見つける
- がんの進行度診断:内視鏡手術で直り可能性が高いがんと低いがんの診断
・AI 92.9%/経験18年未満の専門医 88.2%/経験18年以上の専門医 91.5% - 未来は?
・診断精度の向上
・カプセル内視鏡の精度向上:十数時間分の画像→AI は数分で処理
・発がんリスクの予測
・自動診断記述
・自動内視鏡手術
・AIを使いこなせない医師には厳しい未来/患者には明るい未来
- ImageNetの画像認識コンペ (ILSVRC):2010年の認識エラー率20数パーセント→2012年Alexnetが登場/一気に認識エラー率16パーセントを達成→深層学習の有効性を実証
生物医学画像の情報処理、AI 技術の展望:木森
- デジタル画像の構造と生物医学画像の解説
- 可視化:見えない対象を見えるようにする
- 定量化:画像の持つ情報を数値データに変換する
- Mathematical morphology (MM):グレースケール画像=輝度をZ軸にした3D表現
・G. Matheron & J. Serra, The Birth of Mathematical Morphology. 2000 - 機械学習による生物医学画像の処理
・家族性拡張型心筋症モデルマウスの心筋細胞形態計測:Weka フレームワーク→精度が出ない
・MM による構造特徴強調と機械学習の組み合わせ→心筋細胞膜を精度良く抽出した
ゲノムと人工知能が導く新たながん医療:古川
- がんは遺伝子の病気:がん=異常な遺伝子 (遺伝子変異) をもつ細胞の集団
- ゲノム?:遺伝情報を書き込んだ生命の設計図
・60億文字 (塩基) を46冊の本 (染色体) に分けて記録 - がん細胞の遺伝子変異は1つではない:1つのがん細胞にいくつもの遺伝子変異
・小児がんでは遺伝子変異の数は少ない
・肺がんや悪性黒色腫では多い
・喫煙者の肺がんでは非喫煙者の肺がんよりも多い
・L. B. Alexandrov, S. Nik-Zainal, M. R. Stratton et al., Signatures of mutational processes in human cancer. Nature 500(7463)2013 415-421 - 遺伝子変異の蓄積によるがんの進化
・大腸がんになるまで約17年の変異の蓄積がある
・ただし、遠隔転移の能力を獲得するまでの年数は2年以下
・少数の変異イベントが遠隔転移能獲得に寄与
・S. Jones et al., Comparative lesion sequencing provides insights into tumor evolution. PNAS 105(11)2008 4283-4288
- ゲノム?:遺伝情報を書き込んだ生命の設計図
- 分子標的治療薬:がんをがんたらしめる変異遺伝子を標的にした抗がん剤
- グリベック (イマニチブ) の例:慢性骨髄性白血病のフィラデルフィア染色体
- イレッサ (ゲフィニチブ) の例:肺がんのEGFR変異
- 免疫チェックポイント阻害剤の例:PD-1, PD-L1/変異の多いがんに効果が高い傾向
- がん遺伝子パネル検査による分子標的治療薬選択
・個々の遺伝子診断検査を行うより、一度に数多くの遺伝子の変異を調べたほうが効果的
・MSKの大規模ながん遺伝パネル解析では、約36.7%にactionableな変異が見つかった
・A. Zehir et al., Mutational landscape of metastatic cancer revealed from prospective clinical sequencing of 10,000 patients. Nat.Med. 23(6)2017 703-713 - 個々のがんに対して、分子標的治療薬の効果を予測できるようになった
- グリベック (イマニチブ) の例:慢性骨髄性白血病のフィラデルフィア染色体
- 遺伝性腫瘍の発症前診断:遺伝的要因の大きながんを予防する
- 乳がん卵巣がん:BRCA1, BRCA2遺伝子の変異
- 大腸がん:約4分の1は遺伝的要因が関与
- 遺伝性腫瘍は多様である
・変異の解釈が問題 (bottleneck) になる
・臨床シークエンスによる数千から数百万の変異+多数のデータベース、論文、報告書などの知見を組み合わせて最適な治療法を探る→人の解析能力を凌駕している
- 乳がん卵巣がん:BRCA1, BRCA2遺伝子の変異
- IBM Watson による網羅的文献解析 (Watson for Genomics)の例
- ドライバー変異の一覧
- 対応する分子標的治療薬の予測
- 関連するエビデンス情報
- 医師団による検討を経て治療法を決定
- ドライバー変異の一覧
指定発言:青野
- 5つの視点と疑問
- AIとビッグデータ:患者データにおける個人情報の取り扱い
- AI診断技術の知財、ビジネス利用と患者データとの関係
- AIへの依存性と人との協調:ベテランが育ちにくい環境になりそう/人の直感をAIで置き換えられる?
- AIへのアクセス格差:医療側の格差/患者間の格差
- コミュニケーション:機械に診断報告されることの是非→人 (カウンセラー) によるコミュニケーションの重要性が増すのでは?
- AIにも錯視はあるのか to 木森
- AIとビッグデータ:患者データにおける個人情報の取り扱い
パネルディスカッション
パネリスト
- 青野 由利/毎日新聞論説室専門編集委員
- 古川 洋一/東京大学医科学研究所 臨床ゲノム腫瘍学分野
- 木森 義隆/福井工業大学 環境情報学部
- 石原 立/大阪国際がんセンター 消化管内科
ファシリテーター
- 加藤 和人/大阪大学大学院医学系研究科 医の倫理と公共政策学
指定発言への各パネリストの回答
- 石原
AIへの依存性 (視点3):AIから学ぶことができる可能性もある/将棋AIの例
AIへの依存性 (視点3):勘は名人芸の世界:AIで解決できる可能性はある
アクセス格差 (視点4):AIを使えない医師は淘汰される→新しい医療への流れには抗えない
コミュニケーション (視点5):人が伝えるべき - 木森
AIの錯視:計算機でヒトの錯視を再現できた研究報告はある
ビッグデータ (視点1):AIが必要とされる農業 (利害の対立) や介護 (プライバシーの保護) の分野でデータが集まらない
ビッグデータ (視点1):介護分野でのデータ化は議論が始まったばかり→医療は先行している
ビッグデータ (視点1):介護:見守りAIの開発には継続的ビデオ撮影の必要性 vs. プライバシー - 古川
AI診断の知財と商用化 (視点2):ゲノムデータには特許や知財は主張できない→遺伝子特許は存在しない
AI診断の知財と商用化 (視点2):データシェアリングの仕組みが発達→知財はない
AI診断の知財と商用化 (視点2):方法の開発にはリソースが必要/コストがかかる→コスト回収に知財を主張する可能性
AIへの依存性 (視点3):人もAIもそれぞれに優れたところがある→互いに補完する関係
アクセス格差 (視点4):いずれなくなる→事業化すれば
コミュニケーション (視点5):人が責任を取る
会場からの質問やコメント
- 個別質問
- 石原
Q. AIによって患者が不利益を被った場合:A. 人の医師に責任がある
Q. どういった患者を対象にしているか:A. 研究段階で、希望しても AI内視鏡診療を受けられない
Q. 研究として普段の診療で使う from 加藤:A. 次は保健収載を目指す/大腸ではかなり進んでいる
Q. AIと人が見落とすがんの種類:A. 似た診断をするが、AIの方がオーソドックス/人は忖度する
Q. グレーゾーンの画像は学習データに不向き?:A. 曖昧な画像は学習には使わない
Q. 本当に微妙なところはAIは永遠に踏み込めないのでは?from 加藤:A. 段階的に精度を高めれば可能性はある/グレーゾーンはアラートを出して医師を補助する - 木森
Q. 強調した際のノイズの扱い:A. ノイズ除去の処理を加える
Q. 世界での立ち位置 from 加藤:A. 学習データの前処理に応用する研究はあまりない→重要だが研究が地味で志望する研究者が少ない - 古川
Q. 遺伝性疾患で治療法がないときの対応:A. 治癒方法がない疾患については結果を返さない
Q. 患者が自分の病気について分かっている場合:A. 患者さんの性格や環境に依存する→カウンセリングの段階で対応を決める
Q. がんゲノム解析の費用:A. 阪大は30万円、東大は90万円→未だ決まっていない/先進医療では100パーセント患者負担
Q. がんゲノム解析の方法:A. 血液 (正常組織) と生検材料 (がん組織) からシークエンシングし、比較する
Q. 新しい適応の承認:A. 通常は数年かかる→/海外で承認例があれば1年以内で承認される可能性もある
- 石原
- 全体質問
- 木森
Q. AIの定義:A. 定義は難しい/現時点では特徴を自動で抽出する深層学習 - 石原
Q. AI導入のコスト負担:A. AI導入で患者負担が増えるようではダメ/AI導入で医療側に経済的メリットがなければ普及は進まない→経済的負担1.1〜1.2倍程度では? - 古川
Q. 一般人での自己診断ができるようにならないか:A. 血糖値は自己でできる/リキッドバイオプシーだと可能性はある/メリットと同時にデメリットもある
- 木森
閉会の挨拶:加藤
- AI医療はすぐそこに来ている:このシンポジウムを調べるよすがにしてほしい
- AI医療は日本と世界のため:一般社会の支援と理解が必要
- 協議会と4つのプラットフォーム:地味な研究が日本の強み→さらに支援を
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