複数の診療科の学会を通じて全国の医療機関から大量の医療画像データを収集し、機械学習のための計算資源を併設して迅速な医療AIの研究開発を可能にする医療ビッグデータクラウド基盤 (クラウド基盤) が評価され、令和4年度の科学技術分野の文部科学大臣表彰において、科学技術賞 (科学技術振興部門) を受賞しました。RCMBのセンター長、副センター長である佐藤真一 情報・システム研究機構 国立情報学研究所(NII)教授、合田憲人 NII教授、森健策 東海国立大学機構 名古屋大学教授/NII客員教授、原田達也 東京大学教授/NII客員教授のグループによる受賞です。

クラウド基盤はデータを格納するストレージと機械学習計算を実行するGPUサーバから構成され、高速の学術研究ネットワークSINETに接続しています。データはSINETを通じて学会経由で日々集められています。また、全国に散らばる画像解析研究チームもSINETを利用してクラウド基盤にアクセスし、医療AIを研究開発しています。このようにデータ収集とデータ解析をワンストップで実現し、セキュアな環境で利活用するシステムはこれまでありませんでした。

また、クラウド基盤は医療従事者と画像解析研究者が活発に議論する場を提供しています。医療現場のニーズに基づいたタスクの設定に始まり、研究成果を社会実装するプロセスに至るまで、継続して定期的に議論、検討を重ねており、そうした場としてもクラウド基盤は貴重な存在です。実際、定常的に日本医学放射線学会と議論する機会を持っていたことが、COVID-19肺炎CT画像の典型度を判別するAIの迅速な研究開発に繋がりました。

クラウド基盤 – 医療画像AIの研究開発をワンストップで実現するプラットフォーム
A. クラウド基盤では高性能なストレージと計算資源が直結しており、学会からのデータ受け入れから学習データセットの準備、機械学習までをワンストップで実現しています。クラウド基盤と外部との接続には高速大容量の学術専用ネットワークSINET6 (昨年度まではSINET5) を利用し、VPN接続によってセキュリティを確保しています。クラウド基盤が維持される限りデータは保持されるため、PMDA申請などに伴う再検証などの要求にも対応しています。学会に属する日本全国の医療機関から多種多様な医療画像が大量に提供され、なおかつ付帯情報のデータベース化、専門医によるアノテーションも付与しており、質、量ともに世界有数の医療画像ビッグデータを実現しました。
B. 従来の医療画像解析研究では、単一の医療機関と単一の解析研究グループが共同研究を行う枠組みが大多数です。この枠組みは研究開発の機動性の面では優れるのですが、データの質や量に偏りや不足が生じやすく、AIの頑健性に問題が出ることがあります。また、共同研究終了後のデータの所在が曖昧となり、後の再検証が困難となる場合も多くなります。

今回の受賞を励みとして、RCMBでは今後もクラウド基盤のより一層の増強と受け入れデータ種類の拡大を図るとともに、研究成果である医療AIを社会実装する活動に力を入れて行きます。なお、受賞の詳細はNIIニュースリリース文部科学省の発表をご参照ください。

NIIニュースリリース
医療ビッグデータクラウド基盤のAI自動診断研究への貢献で文部科学大臣表彰・科学技術賞(振興部門)を受賞 佐藤真一・合田憲人 NII教授、森健策 名古屋大教授、原田達也 東京大教授が共同受賞 (https://www.nii.ac.jp/news/release/2022/0408.html)

NII Commendation 2022 News Release
文部科学省の発表 (https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/mext_00989.html)