NII RCMBでは、2021年度より順天堂大学ならびに名古屋大学と共同で国立研究開発法人情報通信研究機構 (National Institute of Information and Communications Technology, NICT) の委託研究「ウイルス等感染症対策に資する情報通信技術の研究開発」に取り組んでいます。研究課題は「課題A ウイルス等感染症により発生するパンデミック対策に資するICT (採択番号 222A03)」です。

研究開発の背景と目的

SARS-CoV-2 (新型コロナウイルス) 感染によって引き起こされる感染症COVID-19のパンデミックは医療サービスを供給するリソースの逼迫を来たし、COVID-19患者への対応のみならず、それ以外の医療受給者への深刻なサービス水準の低下をもたらしました。このような世界的な緊急事態に際しては、平常時と同程度の医療サービス水準を維持することに加えて、緊急事態に対応した適切な医療サービスを迅速に供給することが求められます。医療サービスを供給するリソースの第一は医師や看護師、技師などの人的資源なのですが、緊急事態に柔軟に対応できる経験豊かな優れた人材を多数、かつ即座に確保することはとても困難です。

そこで、ICTを活用した診断支援技術を速やかに開発し、医療現場に迅速に投入することができれば、いくらかであっても人的資源の逼迫を緩和することができます。ここで、例えば医療現場のX線CT画像撮影装置にAI によるCOVID-19肺炎症状診断支援機能を搭載し、感染者の瞬時の特定、重症度や予後の判定を行うことができれば、医療現場の負担を大きく軽減することができます。加えて、画像情報だけでなく検査値や所見文などの医療情報を収集、統合したAI診断技術の研究開発も、さらなる精度向上のために必要です。そのためには、画像を含めた医療情報をICT活用により全国の病院から一元的に蓄積、活用するプラットフォームを常時稼働しておくことが不可欠です。

この課題では、上述のようなAIによる診断支援技術を平常時から研究開発し、緊急事態にあっては必要な医療支援を速やかに臨床現場へ供することを可能とするために、ICTを活用した医療情報の蓄積と機械学習によるデータ解析の機能を統合したプラットフォームであるクラウド基盤を整備・運用します。さらに、毎日蓄積している医療情報を統合解析し、必要なときに必要な学習データを迅速に準備して診断支援AIの研究開発を加速するプラットフォームを目指します。

研究開発の概要

具体的には、次の二つの研究開発を実行しています。

  1. 日本医学放射線学会が運営する日本医用画像データベース (J-MID) から学術ネットワークSINETを通じて悉皆的にCT画像を受け入れる仕組みを利用し、COVID-19肺炎症例および対照症例をアノテーション情報を含めて収集し、学習データを準備する。
  2. NIIが運用する医療ビッグデータの収集、解析プラットフォームであるクラウド基盤について、SINETを通じた外部の計算リソースとの基盤連携を行う。

2021年度の研究成果

NICT 222A03 付図説明 – クラウド基盤に日々送られてくるCT画像から肺野のシリーズを抽出し、COVID-19肺炎の典型度を判定する診断補助AIを稼働しました。判定結果を日毎に集計してサーベイランスとしています。グラフ中の新規陽性者数と2回目ワクチン接種者数は、それぞれ厚生労働省とデジタル庁のオープンデータを利用しました。
厚生労働省オープンデータ https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/open-data.html
デジタル庁オープンデータ https://info.vrs.digital.go.jp/dashboard

順天堂大学ではJ-MIDに悉皆的に収集されたCT画像のうち、PCR検査によってCOVID-19と判明した症例を選別し、COVID-19肺炎の規定の分類に従ってCT画像を評価しました。現在までに、画像およびアノテーションからなるデータ計1553例を蓄積しています。これらはSINETを通じてNIIのクラウド基盤に収集され、NIIではこのデータセットを用いて、AI解析が迅速に行えるように必要な情報を抽出するワークフローを確立し、COVID-19肺炎のAI解析に最適化された学習データセットとして整備しました。

名古屋大学では、この学習データセットを用いてCT画像からの自動識別を行うCOVID-19 診断補助AIを開発しました。開発した手法は学習データが20例と少ない場合においても従来手法より高い精度でのセグメンテーション実施が可能でした。判別AIでは3D Convolutional Neural Network (3D CNN) を用いて自動判別を実現しました。3D CNNの実現にあたっては、3D画像であるCT画像のAxial、Coronal、Sagittal断面それぞれで並列的に画像特徴抽出を行い、それらを統合して3D画像の判別を行う機構を独自に開発し、約83%の分類精度を実現しています。また、診断補助AIを用いた実証実験用ソフトウェアを開発し、データベース基盤のCT画像に対して継続的にAIの自動判別結果を得ることを可能としました。データベース基盤と診断補助AIを連携させ、医療機関からデータベース基盤へ格納されたCT画像に対してバッチ処理的にAIの各処理を適用し判別結果を得る仕組みです。これにより、過去から現在までの多数のCT画像からCOVID-19の感染拡大状況の統計的データを取得可能とし、画像ベースで感染動態の判別や推定を可能とするシステムを実現した。また、この成果は医療機関におけるCT撮影装置と連動した診断補助AIの駆動に応用可能です。

NIIと名古屋大学では、NIIの保有する医療画像大規模データベースと名古屋大学情報基盤センターのスーパーコンピュータをSINETを利用して接続するCOVID-19画像解析のための接続実験を進めています。2021年度では、実証実験のための環境を設計し、試行実験用のNIIのストレージサーバと名古屋大学に設置したGPUサーバとの転送実験までを実現しました。

研究成果の外部発表

  1. COVID-19 lung infection and normal region segmentation from CT volumes using FCN with local and global spatial feature encoder, Masahiro Oda, Yuichiro Hayashi, Yoshito Otake, Masahiro Hashimoto, Toshiaki Akashi, Kensaku Mori. Computer Assisted Radiology and Surgery (CARS 2021), オンライン, International Journal of Computer Assisted Radiology and Surgery, Vol.16, Sup.1, pp.S19-20, 2021/6/21

  2. J-MIDと連携した国立情報学研究所のクラウド基盤におけるAI研究開発, 村尾 晃平, 第34回電子情報研究会・第4回日本医用画像人工知能研究会合同研究会, オンライン, 依頼講演(第57回日本医学放射線学会秋季臨床大会3日目)特別企画「日本医用画像データベース(J-MID)シンポジウム」, 2021/9/19

  3. J-MID(Japan-Medical Image Database)とは?, 明石 敏昭, 第34回電子情報研究会・第4回日本医用画像人工知能研究会合同研究会, オンライン, 依頼講演(第57回日本医学放射線学会秋季臨床大会3日目)特別企画「日本医用画像データベース(J-MID)シンポジウム」, 2021/9/19

  4. COVID-19 Infection Segmentation from Chest CT Images Based on Scale Uncertainty, Masahiro Oda, Tong Zheng, Yuichiro Hayashi, Yoshito Otake, Masahiro Hashimoto, Toshiaki Akashi, Shigeki Aoki, Kensaku Mori. CLIP 2021, 10th MICCAI CLIP Workshop, Clinical Image-Based Procedures, Distributed and Collaborative Learning, Artificial Intelligence for Combating COVID-19 and Secure and Privacy-Preserving Machine Learning, オンライン, LNCS 12969, pp.88-97, 2021/9/27

  5. 胸部CT像からのCOVID-19症例の自動分類手法, 小田 昌宏, 鄭 通, 林 雄一郎, 大竹 義人, 橋本 正弘, 明石 敏昭, 森 健策. 第40回日本医用画像工学会大会(JAMIT2021), オンライン, 第40回日本医用画像工学会大会予稿集, P1-01, pp.65-67, 2021/10/13

  6. CT像の非等方性を考慮した3D CNNによるCOVID‒19症例の自動分類手法, 小田 昌宏, 鄭 通, 林 雄一郎, 大竹 義人, 橋本 正弘, 明石 敏明, 青木 茂樹, 森 健策. 第30回日本コンピュータ外科学会大会(JSCAS 2021), オンライン, 第30回日本コンピュータ外科学会大会特集号, Vol.23, No.4, pp.265-266, 21(7)-4, 2021/11/22

  7. Mechanism Of AIs In COVID-19 CAD And Techniques To Improve AI Performance, Masahiro Oda, Yuichiro Hayashi, Zheng Tong, Toshiaki Akashi, Shigeki Aoki, Kensaku Mori, Masahiro Hashimoto, Hiroshi Natori. RSNA 2021, Chicago/McCormick Place, CHEE-123-HC, 2021/11/28

  8. 機械学習技術を用いたCOVID-19 CT画像解析と画像データベース基盤, 森 健策, 第13回呼吸機能イメージング研究会学術集会, オンライン, 依頼公演, 2022/1/22

  9. 胸部CT像からのCOVID-19に関連した所見文の自動生成の検討, 岡崎 真治, 林 雄一郎, 小田 昌宏, 橋本 正弘, 陣崎 雅弘, 明石 敏昭, 青木 茂樹, 森 健策. 電子情報通信学会技術研究報告(MI), オンライン, MI2021-57, vol.121, no.347, pp. 49-54, 2022/1/26

  10. Automated classification method of COVID-19 cases from chest CT volumes using 2D and 3D hybrid CNN for anisotropic volumes, Masahiro Oda, Tong Zheng, Yuichiro Hayashi, Yoshito Otake, Masahiro Hashimoto, Toshiaki Akashi, Shigeki Aoki, Kensaku Mori. SPIE Medical Imaging 2022 On-Demand, オンライン, 2022/3/21